山桃と椎の実
梅雨入りが遅い
雨の匂いがする 午後の公園を 歩いていると
片手にスナック菓子を持った子供達が 何かを覗いている
覗いて見ていたのは ゲーム機だった
いつもなら『ゲームばかりするんじゃないぞ』と
声をかけるのだが 雨の匂いのせいだろうか
黙って通り過ぎた
遊歩道の脇で 私の視線がとまる
背丈の倍くらいの樹木が 紅い実をいっぱいにつけていた
熟した実をひとつちぎって 口にすると
甘酸っぱい 懐かしい味覚が
遠い記憶を 蘇らせてくれた
60年前
今みたいに飽食ではなかった
私達は いつも腹を空かしていた
でも自分だけが 腹を空かしていたわけではなかった
みんな 貧乏だったから
スナック菓子や コンビニなんかあるはずもなく
母から 10円玉をねだっては
近くの駄菓子屋へ走った あの頃
10円をもらえない時は 近くの雑木林に行っては
山桃の木に登っては 赤く熟した《山桃》の実を
ポケットに詰め込んでは 近くの友達と
分け合っては 食べたものだった
雑木林は 私達にとってはコンビニみたいなもので
秋には《椎の実》や栗を取ってきては
母に 炒ってもらっては 空腹を満たした
ゲーム機など無かったが 雑木林で すみか を作ったり
ため池で 鮒を釣ったり 遊びで悩むことはなかった
ビー玉、パッチン(メンコ)、三角ベース、
私達は 遊びの天才だったようだ
来週には 梅雨入りだと 予報は伝えた
今年の祭り(山笠)は 雨の中 だろうか